国境を越える
清々しい秋晴れの日が続いている。
先日、4年ぶりに来日した恩師のレッスンを受けてきた。86歳の師が奏でる生き生きとした美音とその混ざり合いによる繊細な音色のグラデーションの妙に、久々に目の覚める思いをした。あまりにも暑くて長過ぎた夏以来、すっかり澱んでいた身体の細胞ひとつひとつが活気を取り戻したような時間となった。そして気づいたのだ。音楽は国境を越えると言われ、それは言語を介さないコミュニケーションツールとなり得るという文字通りの意味もあるけれど、私が娘に示してやりたいのはそちらではなくてこれだと。音楽でなくともいいのだ。自らの持てる能力を磨いて高めようと努力すれば、国境を超えた同志や偉大な先輩達の才能に触れて世界が広がるのだということを。